Daisuke Sugiura, Takumi Maruhashi, Il-Mi Okazaki, Kenji Shimizu, Takeo K Maeda, Tatsuya Takemoto, Taku Okazaki
Science. 2019 May 10;364(6440):558-566
抑制性免疫補助受容体PD-1およびCTLA-4を標的としたがん免疫療法が劇的な治療効果を示したことから、免疫補助受容体の機能が大きな注目を集めている。一般的に、CTLA-4がT細胞応答の活性化段階で機能し、PD-1は末梢におけるエフェクター段階で機能すると対比されるが、PD-1はT細胞の活性化を全く抑制しない訳ではなく、実際にそのような使い分けがなされているかどうかは不明であった。
我々は偶然、CD28およびCTLA-4のリガンドとして知られるCD80が、抗原提示細胞上でPD-1のリガンドの一つであるPD-L1と隣り合わせに結合(シス結合)することにより、PD-L1がPD-1と結合するのを妨害することを見出した(Figure A)。また、CD80によってPD-1とPD-L1の結合が邪魔されると、PD-1がT細胞の活性化を抑制できなくなることも分かった。マウス由来の様々な抗原提示細胞で検討を行ったところ、特に活性化に伴ってCD80が強く発現誘導される樹状細胞において、このシス結合によりPD-1とPD-L1の結合阻害が観察された。さらに生体内における本シス結合の役割を明らかにするために、CD80とPD-L1にアミノ酸変異を導入して、PD-L1と結合できないCD80変異体およびCD80と結合できないPD-L1変異体を作製し、CD80とPD-L1がシス結合できない遺伝子改変ノックインマウスをCRISPR/Cas9システムで作製して解析を行った。野生型マウスに比べてノックインマウスでは、ワクチンに対するT細胞応答が減弱していた。さらに、ノックインマウスでは、マウス多発性硬化症モデルであるMOG35-55ペプチドによって誘導されるEAEの症状が軽減していた(Figure B)。これらの結果から、T細胞が抗原提示細胞に活性化される段階においては、CD80が興奮性免疫補助受容体CD28を活性化する一方で、PD-L1とシス結合してPD-1の機能を制限することにより、免疫応答を強く誘導するという巧妙なメカニズムが解明された(Figure C)。
本研究は、たまたまCD80とPD-L1を同じ細胞に発現させたところ、PD-L1とPD-1が結合できなくなりPD-1の機能が認められなくなることに気付いたことがきっかけでスタートしました。CD80とPD-L1の組み合わせが重要であり、CD86やPD-L2を使用していたら気付けなかった可能性もあったので、非常に幸運だったと思っています。また、我々の論文がScience誌に掲載後、シスPD-L1/CD80結合に関する論文が複数報告されており、他のグループに先んじて報告することができ、これも幸運だったと思います。シスPD-L1/CD80結合がおこらないノックインマウスでは、自己免疫疾患の軽減や抗腫瘍免疫応答の減弱が観察されていることから、今後、シスPD-L1/CD80結合を標的とした、がん、自己免疫疾患、慢性炎症などに対する新たな治療法の開発を目指して研究を進めていきたいと考えております。
A. PD-L1とCD80が同じ細胞上に発現していると、cis-PD-L1/CD80結合によりPD-1とPD-L1との結合が阻害される。
B. cis-PD-L1/CD80結合できないPD-L1 mutant (Cd274Y56A), CD80 mutant (CD80L107E)ノックインマウスではEAEの病態が軽減する。
C. cis-PD-L1/CD80結合がT細胞活性化段階におけるPD-1の抑制機能を制限している。