研究者 文献紹介

究者 文献紹介

河野通仁先生
論文タイトル
グルタミナーゼ 1 の阻害はループスモデルマウスならびに実験的自己免疫性脳脊髄炎モデ ルの病勢を改善させる
論文著者
Michihito Kono, Nobuya Yoshida, Kayaho Maeda, Abel Suárez‐Fueyo, Vasileios C Kyttaris, George C Tsokos. Glutaminase 1 Inhibition Reduces Glycolysis and Ameliorates Lupus‐like Disease in MRL/lpr Mice and Experimental Autoimmune Encephalomyelitis. Arthritis Rheum. 71(11):1869-1878, 2019.
論文の概要

IL-17 産生 CD4 陽性細胞(Th17)の分化には細胞内代謝が重要であり、これまでに我々は解糖系がTh17 の分化に重要であることを示してきた(Michihito  Kono,  Nobuya  Yoshida,  et al.  Proc  Natl  Acad  Sci  U  S  A.115(37):9288-9293,  2018,  Michihito  Kono,  et  al.  JCI Insight.  4(12).  pii:  127395,  2019)。さらにglutaminolysis の最初の酵素であるグルタミナーゼ 1(Gls1)もTh17 の分化に重要であることを明らかにした(Michihito Kono, Nobuya Yoshida,  et  al.  Proc  Natl  Acad  Sci  U  S  A.  115(10):2478-2483,  2018)。しかしGls1 阻害が全身性エリテマトーデス(SLE)に効果があるかについては明らかではなかった。そこで本研究はGls1 阻害薬がSLE の治療になりうるか、またその機序を明らかにすることを目的とした。

ループスモデルであるMRL/lpr マウスにGls1 阻害薬であるBPTES を腹腔内投与したところ尿蛋白ならびに腎組織スコアは改善した(図 1)。さらに SLE 患者からnaive CD4 陽性細胞を分離、Th17 条件で培養し、BPTES を添加したところTh17 への分化は抑制された。その機序を検討するためIL-17 産生細胞特異的なGls1 コンディショナルノックアウトマウスを作製した。ノックアウトマウスではTh17 分化が抑制され、多発性硬化症モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎モデルの病勢も低下した。さらに  Gls1  の欠損により解糖系ならびに hypoxia-inducible factor 1α (HIF1α)の遺伝子発現量は低下していた。これらよりGls1はHIF1α の発現ならびに解糖系にも影響を及ぼし、Th17 分化を抑制していることが明らかとなった。また、Gls1 が SLE ならびに多発性硬化症の治療ターゲットとなりうることが明らかとなった。

著者より一言

本研究は私の留学先である Harvard Medical School の Beth Israel Deaconess Medical Center の George C. Tsokos 先生の研究室で行った研究になります。本来は前年度に publish された論文(Michihito Kono, Nobuya Yoshida, et al. Proc Natl Acad Sci U S A.115(10):2478-2483, 2018)と一つの論文にまとめて投稿する予定でしたが、ほぼ同様の研究が他の Lab でされているという噂を耳にしたため、二つの論文に分けて投稿することにしました。実際 1 本目の論文が publish になった 1 年以内に、別のラボから Cell に publishされ(Marc O Johnson, et al. Cell. 175(7):1780-1795.e19, 2018)、世界の競争の激しさを肌で感じることができました。幸運に恵まれなんとか先に publish できたのは、Tsokos先生ならびに一緒に実験を遂行してくださった吉田修也先生をはじめ、協力してくださった方々のお陰と心より感謝申し上げます(図 2)。また、留学をご了承いただいた渥美達也先生、医局員の先生方にも心より御礼申し上げます。現在も自己免疫性疾患における細胞内代謝の研究を続けており、臨床応用を目指し、さらに研究を深めていきたいと考えております。

図 1 グルタミナーゼ 1 阻害薬(BPTES)によりループスモデルの病勢は改善した。
A.尿中アルブミン量。B.代表的腎組織像。C 組織学的スコア。D.腎臓の浸潤細胞数をフロー
サイトメトリーで解析した。*; p < 0.05, Mann-Whitney test。
図 2 Tsokos ラボのメンバーと。写真一番左が筆者、右から 2 番目が吉田先生。
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