研究者 留学体験記

究者 留学体験記

久保 智史先生
留学先紹介

2019年4月から米国立衛生研究所(NIH)に来ています。リウマチ学を志している先生で留学を希望する、あるいは迷っていらっしゃる方にCOVID-19の禍真っ只中の米国からメッセージを書かせていただきます。「若輩の私がこのようなメッセージを…」、と書き出したところで、ふと気づきましたが私自身が不惑を迎えており、若輩という言葉を使うべきではないのかもしれません。矢よりも疾い日脚を感じます。

閑話休題、現在の日本のリウマチ学を強く牽引し世界レベルまで押し上げたのはここで名前を出すまでもない傑出した先生方によるものですが、一方でそのような若手が少ない現状は非常に危機的です。リウマチ学に限らず、免疫学においてもそのような傾向があるようですが、伝統ある日本の免疫学に比べるとリウマチ学はより深刻ではないかと思います。

改めて言うまでもないことですが、留学することは多くの視点を与えます。私がここにきてまず感じたのは自分自身のふがいなさでした。自身の浅学非才を感じる場面が多く、落ち込むことも少なからずありました。しかし、そのような逆境でこそ真価が問われるものでもあり、成長するものでもあるようです。留学することの一つの意義は自身の成長であると思います。学ぶことを楽しく感じるという境地まで到達するのは難しいですが、どこにゴールを置いたとしても成長することを時に実感することは悪くない経験ではないかと思います。

さて、私がいるNIHはアメリカ最大の研究施設で、コンスタントにノーベル賞受賞者を輩出しており、世界有数の研究機関です。もちろん、有数の研究機関であることとそこに所属していることは大きな因果関係はなく、結局は個々人の力が全てですが、環境は良いので(今はコロナ禍ですが)NIHで研究したいという方でサポートが必要であればいつでもご連絡ください。私のラボ(https://www.niaid.nih.gov/research/michael-j-lenardo-md)はヒト免疫疾患にフォーカスを置いていて、分子生物学をヒトに応用したいと思う方には面白いと思います。

一を聞いて以って十を知る、とは論語で子貢が顔回を評した言葉ですが、同時に賜は一を聞いて以って二を知るのみと自身を評し、自身を正確に評価した子貢を孔子は深く賞したとされます。私は留学して、一を聞いて以って二を知ることすらできないと実感し、もう一度初めから始める思いで過ごしています。ベンチとベッドのトランスレーションが重要であると恩師である田中良哉教授から何度も薫陶を受けてきましたが、今アメリカでその意味を改めて考えてみると、「自己免疫疾患患者の体の中で起きていることを正確に知る」、ということがリウマチ学の本質であるように思えています。このテーマは壮大ですが、多くの医師が留学し経験し成長していくことで到達に近づくと信じています。このメッセージを読んでくださった若きリウマチ医師が一人でも留学への道を考えてくださることを祈念しています。

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