研究者 留学体験記

究者 留学体験記

中坊周一郎先生
留学先紹介

私は2018年6月よりNIAMS/NIHのMariana J Kaplan先生のラボで、主にタンパク質の翻訳後修飾、中でもカルバミル化に注目して研究を行っています。渡米前は京都大学臨床免疫学教室(免疫・膠原病内科)にて自己抗体、特に抗シトルリン化タンパク抗体や抗カルバミル化タンパク抗体の研究を行っておりました。

NIHは数多くの日本人の諸先輩方が所属しておられた施設であるとともに、現在でも約300名強と多くの日本人研究者が所属しています。また、日本人に限らず外国籍の研究者の割合が高く、私のラボでも多数派はアメリカ国外から来た研究者です。このことは異文化の交流という意味でも有意義なのですが、それ以上に英語を母国語としない人が多いということは言語面での苦労が減るという点で大きな意味を持ちます。さらに、同地域に多数の日本人が居るというのは特に家族にとっての負担を減らしてくれるので重要なファクターかと思います。

Kaplan先生は良い意味でも悪い意味でも「放置系」です。ラボに所属している個々の研究者がやりたい実験に制限をかけるようなことはほとんどありません。ラボのキーワードとしてはSLE、好中球、インターフェロンといったところになりますが、特段の締め付けは無く、各々そこから派生して自分の好きなことをやっています。つまり、NIHの豊富な資金と設備と人材と患者検体へのアクセスを用いて思いのままに研究を進めていくことが出来ます。ただし、Kaplan先生自身は実験室に姿を見せることはほぼなく週1回のラボミーティングで顔を合わせる程度で、先生から直接指導を受けるということは事実上ありません。よって自由が与えられている一方で、自分で主体的に研究計画を立てる能力とそれを遂行する意志の力が求められます。もちろん各ラボによって色々ではありますが、NIHは資金に余裕が有るため比較的緩いコントロールのラボの比率が高いようです。

さて、当地での生活のお話もいたしましょう。NIHのあるBethesdaはWashington DCまで約30分ほどの郊外にあります。Washington DCはアメリカの首都ではありますがそれほどの大都会ではなく、豊富な自然に囲まれた暮らしやすい環境です。日常生活はほぼパンデミック前の状態に戻っており、スミソニアン博物館群(なんと無料)やアメリカ4大スポーツ全てがチームを置いているなど、観光や娯楽面でも充実しています。そして治安の悪化が報じられる2022年4月の現状においてもNIH周辺は平穏で、夜でも女性が一人で歩けます。

当地の日本人コミュニティの特徴としては、NIHが医学研究所であることから医学に無関係な日本人研究者(例えば物理学であるとか、文系であるとか)がほとんどいないということが挙げられます。MDの比率も高い。よって、研究者同士が分野を大きく飛び超えて交流するということはあまり期待できません。ただもちろん医学関連分野の範囲内では活発な交流があります。そして世界の政治の中心ということもあり官僚や企業の方も多く滞在しておられ、当地独特のお付き合いができるのは面白い点だと思います。

そうそう、NIHや周辺地域の企業・組織などの日本人会として「NIH金曜会」というものがありまして、私もオーガナイザーの末席を汚させていただいております。最近になってようやくin personでの集会も可能となり、交流の場としての賑わいを取り戻しました。こちらにいらっしゃる際はぜひメーリングリストに加入してくださいね。

いまだに尾を引くパンデミックや混迷する世界情勢など色々と難しい時期が続いていますが、NIHでの研究生活はお勧めできます。何かお聞きになりたいことがあれば遠慮なくご連絡ください。こちらにいらっしゃるのを美味しいクラフトビールとともにお待ちしています。

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