IgG4関連疾患は日本から提唱された新しい疾患概念であり、これまで臓器別に別々の疾患であると考えられていたI型自己免疫性膵炎、ミクリッツ病、後腹膜線維症、Riedel甲状腺炎などを単一の疾患概念として捉えるものである。検体数が限定的であり、これまで遺伝子解析も比較的少ない症例数について、候補遺伝子アプローチを取られてきたにすぎなかった。
本論文では、日本人におけるIgG4関連疾患の全ゲノム関連解析を実施した。日本全国各地の50の研究施設から検体を集積し、857人の疾患群と2082人の対照群を用いた。既知のHLA領域の関連を確かめたほか、FcGR2B領域が有意な関連を示した。特にFcGR2Bは、関連多型は日本人末梢血の遺伝子発現データにおいて、FcGR2B遺伝子発現が上昇する多型であって、IgG4関連疾患の疾患感受性の関連とFcGR2Bの遺伝子発現の関連が一致した。このことから、FcGR2B領域の関連はFcGR2B遺伝子の発現上昇によって説明できることが強く示唆された。FcGR領域はcopy number variationが存在することが知られているが、FcgR2B領域はCNVが存在しないことを確かめ、さらにFcGR3B(CNVがSLEに関連することが知られている)のCNVはIgG4関連疾患とは関連しないことを確かめた。
HLA領域の関連については、関節リウマチやSLEなど数多くの自己免疫性疾患と関連を示すHLA-DRB1のアミノ酸残基の場所が強い関連を示した。このことは、メカニズムの点で、他の自己免疫性疾患とIgG4関連疾患の共通性を示唆するものである。
FcGR2BはB細胞に発現する唯一のFcGRであり、さらに抑制性のシグナルを伝えるタンパクである。FcGR2Bの発現上昇は、B細胞系の機能を抑制する機構がIgG4関連疾患の疾患感受性に関わることを示している。これは、IgG4が抑制性の機能を持っていることと併せて興味深い。さらなる検体数の上昇と詳細な解析が期待される。
IgG4関連疾患は、I型自己免疫性膵炎とIgG4の上昇を日本の信州大学から報告された論文に端を発する疾患概念であり、日本が世界をリードすべき疾患であると考えています。
本研究に当たっては、数多くの共同研究者の先生方のご協力を頂きました。かなり詳細な臨床情報調査項目についてもご入力くださり、各先生方の熱意を感じるとともに、貴重な検体を解析させていただく責任も感じました。
2016年の夏に初稿が完成したのですが、紆余曲折を経て論文掲載までかなりの時間がかかってしまいました。最終的にLancet Rheumatology誌の創刊号に掲載され、表紙は本研究結果にinspireされたデザインになりました。本論文から、ますます日本のIgG4研究が盛んになり、日本発の成果が発表されて行けばと願っています。
Lancet Rheumatology誌はLancetの姉妹紙で、新興のjournalでまだpubmedの掲載もされておらず、そのためかIgG4関連疾患そのものの注目度に比してまだまだcitationも控えめですが、是非リウマチ科医の先生方にこの論文の存在を認識していただければと思います。